茶の湯における音 〜釜の沸く音、松風編〜

茶の湯の釜の音、松風

 

大音量が鳴っているライブハウスでも寝ている人がいます。

人間は、爆音や騒音のなかで、それを気にしないようにもできるようです。

聞こえている音に変化を見出さないと、その状態に慣れてしまって、その音に対する認識を失うのでしょう。

 

静かな中で行われている茶の湯ですが、物音をあまり立てないでいるからこそ、微かな音が風情を感じさせる機能を果たします。なかでもぼくが気に入っている茶の湯における音の場面は、「松風の消える瞬間」です。茶道のお稽古を始めた人は、案外早くにこの「瞬間」に出会います。

 

「松風」というのは、釜でお湯が沸いている「シュー」という微かな音のことです。その音を、松林を風が吹き抜けていく音に見立てて表現しているのです。お点前の中で、水指(みずさし:水が入っている器です)から釜に水をさすシーンがあります。お茶を飲み終わり、お仕舞いの段階に入ったころに水をさすところが特におすすめです。沸いている釜の湯に常温の水が柄杓からさされるその瞬間、シューという音が消えるのです。消えた瞬間にむしろ、松風がそこにあったのだ、ということに気付かされる感じです。やがて、また釜の湯は沸き、松風が聞こえてきます。

 

この松風の消える瞬間の風情は、とても理解しやすい部分ですので、茶道を習われたり、茶席に着くことがありましたら、ぜひ確認してみてください。ワイワイやっているお稽古場でも、水をさす瞬間だけはお静かに、最高の聴きどころを逃さぬよう。