茶の湯における音 〜すり足編〜

 

茶道のお稽古場におりますと、静寂の中、人の歩く音が聞こえてきます。それは、コツコツとかドスドスではなくて、スッスッという音です。茶道では畳の上を歩くとき、すり足で歩くように指導されます。スッスッというのは、白い足袋の底が畳を微かに擦る音なのです。

 

着物を着てみると、このすり足がとても合理的であり、かつ優雅な振る舞いに見せてくれるということがよく分かります。たくし上げたりしない限り、ドスドス歩くのは難しいです。仮にドスドスドカドカ歩いてみると、裾ははだけてしまうし、不格好極まりないのです。

 

着物を着る機会がある方は、ぜひこのすり足を意識して歩いてみてください。見違えると思います。特に畳の上を歩かれる時は。

 

すり足について、先生に確認してみました。「歩く時は、こうスッスッと音を立てて歩くものなのでしょうか」と、訊いてみました。皆がわざとに音を立てているように見えて、音を出す理由を知りたかったからです。すると先生は、「いいえ、音を立ててはいけません」とおっしゃいました。ぼくは音を立てるものだと思っていましたので少し驚きました。あくまでも、音を立ててはいけない、とのことでした。その浮かせるようで浮かせ切らない足の運びは、実は相当に難しいようです。「足の運びを身につけるために、能を習いに行く人がいる」くらいだそうです。

 

単にすり足にするだけではダメだと知って、基本である「畳の上を歩く」ということを一から見直し、またお稽古が楽しくなってまいりました。