お茶のお稽古場で、床(とこ)にずっしりとした感じの花器が飾られていることがありました。重厚さが感じられるのはその鉄のような色合いからでしょうか。生徒さんの一人が、「先生、これは鉄でしょうか」と尋ねたくらいです。先生が「これは沖縄の焼き物です」とおっしゃいました。このときがぼくと沖縄の焼き物との出会いでした。そのときは、沖縄で焼き物って…とピンと来ない感じがしていました。
そして、沖縄にやって来ました。一度にたくさん見ることができましたので、沖縄の焼き物「壺屋焼」がどういうものなのか、ということを肌の感覚として勉強することができました。
沖縄では焼き物のことを「やちむん」と言います。大きく、荒焼(あらやち)と上焼(じょうやち)と2種類の作られ方があって、荒焼のほうが、釉薬のかかっていない、まさに荒い感じのするもので、上焼は釉薬をかけて焼いた、表面の光沢がある陶器です。
荒焼の作品には、琉球南蛮の文字が見られましたので、扱っているお店で、琉球南蛮とは何ですか、と尋ねました。これはもともと本州のほうで使われていた言葉だそうです。沖縄ではシャム(今のタイ)南蛮など、東南アジアから輸入したものを南蛮焼と呼んでいましたが、沖縄の人が自分たちでそう呼んでいたわけではないそうです。ではどうして琉球南蛮という言葉が有名になったかというと、数寄者、茶人の間でこの沖縄の壺屋焼が重宝され始めたからだそうです。
東南アジア、つまり南蛮からの影響と琉球の大らかさ、日本的な繊細さが交わった独特の雰囲気が、この壺屋焼の荒焼にはあります。
いかにも南蛮っぽい無骨な水指も悪くないですが、やはりうちの先生が使われていたように、清らかな床に鉄のように硬く焼きしめられた花器が置かれている様を美しく思います。いまは床のない家に住んでおりますが、いつかは床に、壺屋焼の「鬼の腕」を花器にして花を飾ってみたいものです。