初釜のとき、花びら餅以上に楽しみにしていることがあります。それは、先生のお点前を見ることで、それが叶うのは1年に1度の初釜のときだけなのです。茶道は口伝であり、指導方法もやってみせるものではなくて、すべて口頭で行われます。そういうわけで、普段はなかなか目にできない先生のお点前を食い入るように見て、そのイメージを脳裏に焼き付けます。
お稽古でも、たまに、帛紗を捌いて見せてくれたり、柄杓の扱いを見せてくれたり、ということはあります。しかし、一連の流れを見ることができるこの機会は一部だけを見せてもらっているのとは、まったく違います。動作の緩急の付け方、移り変わる間、など学ぶことが多くあります。
そして、お茶そのものの味。これもしっかりと記憶に刻みます。あとは日々のお稽古で考えて、自分なりに工夫するのです。記憶をモノサシにして。
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その昔、アメリカの田舎で演奏していたブルースマンは、他人の演奏を見て、その奏法を盗んだといいます。また、盗まれるのが嫌で、同業の者がいたら演奏をやめた人もいたそうです。いわゆるカントリーブルースのギタリストは、自分独自の型があるような人が多くて、ぼくは好きです。きっとそれは、動画はおろか録音物すらなかった時代に、想像で補って自分の演奏を形作ってきたからに違いありません。今は、YouTubeで簡単にさまざまなギタリストの演奏を観ることができますので、想像から来る突飛な発想というものが少なくなってしまったかも知れませんね。
カントリーブルースは、どうやって弾いているのか分からない魅力があります。なにしろ動画がありませんから。かのロバート・ジョンソンの音源を若きキース・リチャーズが、「この後ろで弾いている奴は誰なんだ?」と、ブライアン・ジョーンズに尋ねたというエピソードがあります。ロバート・ジョンソンは一人でギター1本で歌っているのに、その演奏がまるで2本のギターのように聴こえたからです。
ロバート・ジョンソンは2枚しか写真が残っておりません。いきなスーツ姿ととても長い指をそこから確認できます。しばらく姿をくらませて、皆の前に帰ってきたらギターが超絶うまくなっていた、という話も残っています。だから、あいつは悪魔に魂を売ったのだ、とも言われました。そして、最期は演奏を終えた酒場で毒殺されてしまいます。
こういうエピソードを踏まえて、いろいろ想像しながら聴くのもカントリーブルースの醍醐味です!