ポチとその思い出。結婚披露宴で男二人が号泣したお話。

ポチ

 

人のために書いた曲

ぼくは誰かのために曲を書いたりしません。誰かを想って作ることもしません。自分の経験が元になることはもちろんありますが、特定の経験に基づいたり、誰かのために、などということはしません。

 

しかし、これまでに一度だけ、一曲だけ、特定の友だちのために書いた曲があります。「ポチとその思い出」という曲です。

 

未成年が夜に徘徊するために考えた方法

高校三年生のころ、近所に住んでいた仲の良い友だちと、夜な夜な会って、将来のことなどについて語り合っておりました。夜の街に出て、というわけではなく、本当に近所の公園とかをブラブラするだけのものです。

 

それでも、親や警察に、怪しい目で見られました。そこで活躍したのがポチという、ぼくの友だちの飼っていた犬でした。両親には、ポチの散歩に行ってくると言って出かけました。そして、犬を連れていれば警察に職務質問されるようなこともなくなりました。散歩に行けるポチも大喜びで、まさにウインウインウインな体制でした。(^_^)

 

昼でも夜でも長い時間散歩に連れて行ってもらえるからでしょう、ポチはぼくによくなついてくれました。迎えに行くと、それはもう大はしゃぎでした。

 

夜の約束

夜に、お互いがどうやって生きて行こうか、などと熱く語り合うわけです。ポチはぼくらの隣でおすわりしていました。バンドで歌いたかったぼくは、当然のことながら、大学生になったらバンドを組んで、歌うんだ!なんてことを言ってました。何のための大学なんだか…。

 

そして、友だちに言いました。バンドを組んで歌を作るようになったら、ポチの歌を作るよ、って。

 

やがて、大学生になり、4年生くらいのときにようやくバンドを組むことができました。hot buttered pool の前進バンドで、ブレイメンというバンド名でした。このバンドで、ぼくは友だちとの約束を果たしたのです。「ポチとその思い出」を作りました。ポチはもちろん生きているときに作っているのですが、何故か未来設定の曲でした。完成したものの、なかなかその友だち本人に聴かせることは叶いませんでした。

 

ある日、ポチがいなくなった

卒業してからは進路も違いましたので、その友だちとはあまり会うこともなくなりました。年に一回お正月などに地元へ帰ったときに会う程度となりました。

 

あるお正月。
彼が、結婚するから式と披露宴に出て欲しいと言いました。おお、それはめでたいね、ぜひ参加させてもらうよ、と即答しました。そして、何か歌うよ!って。
そのあと、どう、ポチは元気?、と尋ねましたら、彼の顔が曇りました。なんでも、どこかへ出て行ったきり帰ってこなくなったそうでした。

 

披露宴で「ポチとその思い出」を歌う

迷いはありませんでした。約束した曲を本人に聴いてもらうまたとない機会です。ぼくは彼の結婚披露宴で「ポチとその思い出」をギター一本で歌いました。結婚披露宴なので、前の日にNGワードをチェックしました。「別れ」を「出会い」に、「終わり」を「はじまり」に2箇所変更して歌いました。不思議なことに歌全体としては大きく意味が変わるようなことはありませんでした。別れと出会い、終わりとはじまりというものは表裏一体であり、同じようなことなのだな、と妙に納得したことを覚えています。

 

めでたい席で号泣する男二人

歌い切りました。心を込めて歌いました。歌い終わり、新郎である友だちの顔を見上げましたら、なんと号泣していたのです。その姿を見て、ぼくももらい号泣してしまいました。お互いに遠ざけて、あえて語り合おうとしなかったポチに対する想いが一気に爆発してしまったようでした。こうなるようなことを、歌った結果を、深く考えていませんでした。阿呆です。

 

ポチがいなくなったかのようなこの曲の未来設定が見事にハマってしまったのです。本当にいなくなってしまったのですから。

 

犬の歌でなぜこの二人が号泣しているのか、披露宴の出席者にはまったく分かりません。司会者の女性が場を取り繕うように、ポチはどこかにいるのでしょうね!なんて、明るく言いました。あほぅそんなんちゃうねん、ポチはそんなんちゃうねん、と鼻水と涙でぐちゃぐちゃになりながら、心の中でつぶやいてました。

 

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レコーディングしましたので、音源はどこかにあるはずなのですが、今は手元にありません。見つかったら、ここにアップして聴いていただこうと思っています。