日本における茶道の歴史を学ぶと、鎌倉時代に栄西という僧が宋より持ち帰った抹茶が始まりで、そこから日本独自に作り上げられていったのが、いまに続く茶道である、と覚えます。それであるのに、中国、香港、台湾では、茶藝という芸術性の高い楽しみ方もあるけれど、煎茶のほうが主流です。抹茶を飲んでいるイメージはないし、茶筅を振っているイメージもありません。
元は中国から日本へ伝わったものなのに、本家の中国ではなぜ見かけないのだろう、と疑問に感じておりました。ですので、台湾を旅行したときに立ち寄った茶道具店で、「台湾でも抹茶を点てて飲みますか」と訊ねてみました。
すると、お店の方が紙片に「宗、元、明、清」と書いてくださいました。そして、明に鉛筆で丸をして、「この明の時代に抹茶を飲まなくなったのです」とおっしゃいました。確かに日本へ伝わったのは宗の時代ですから、宋の時代には確かに中国にも抹茶があり、茶筅で振って点てるという飲み方があったのです。しかし、その飲み方が明の時代に一気になくなり、煎茶で飲むことになったということでした。そして、今の時代もあまり抹茶を飲むということはしないそうです。
帰国してから、少し中国の茶の歴史を調べてみましたら、明の時代の初代皇帝が団茶(抹茶のような飲み方をするお茶)の禁止令を出したそうです。お上が禁止令を出してしまえば、一気にそれはなくなりますね。その代わり、中国では煎茶の飲み方、とくに香りを楽しむ方向性を強くし、発展してきました。香りを大切にするから、お花を使ったお茶なんかが出来上がるわけですね。
お店の方は、台湾では抹茶を飲まない、とおっしゃってましたけれど、抹茶味のお菓子や抹茶ラテなどは多くのお店で見受けられました。